月夜見

     春の お花といったらば 〜大川の向こう

 
早く春にならないかなぁと思ってた頃は、
梅が咲いたぞ、沈丁花がいい匂いだねぇ、
水仙が土手に一杯咲いててねぇ、なんて。
ちょっとでも何か咲いてると、誰より早くと先取りするよに
“知ってたかい?”なんてって話題に乗っけてた大人たちも。

 桜、もくれん、つつじにハナミズキ

長っ尻の山茶花がさすがに終わった庭へ、
次から次、大忙しに咲く段ともなれば、
わざわざ目ざとくならずとも目に入るからか、
それともそれどころじゃあないと忙しくなるからか、

 「あんまり何が咲いたって話、しなくなるよな。」
 「そかー?」

オレンジ色の小さなポピーっぽい雑草が生える庭先、
金木犀やビワの木に、若い葉の柔らかい枝が勢いよく茂る中。
小さな坊やと、ちょっとだけ大きいお兄ちゃん坊やが、
お団子のように身を丸くして しゃがみ込み、
縁側下の暗がりをそろって覗き込んでいる様は、
何やら探しもの中という態でおいだったりし。

 「ガッコでさ、
  春に咲く花、夏に咲く花、秋に咲く花ってゆうの、
  絵と名前ときせつと 線で結ぶ問題があってよ。」

あんまりよく見えないところへの探し物に飽きたか、
適当な棒を拾って、地面へざりざりと線を引きつつ、
小さい方の坊やがぶうたれたのが、

 「ちうりっぷって夏の花じゃねぇんだぞって、
  お前いっつも同じ間違いしてよってエースに笑われた。」

 「お?」

虫取り網を反対に持ち、
竿のところの先を暗がりへ突っ込んでいた、いがぐり頭のお兄ちゃん。
おやそれはと、何かしら気になったところがあったものか、
微妙に話半分ぽい聞き方だったのが、
お顔をわざわざ小さい坊やの方へと向ける。
丘の上の公園や小学校の庭などで桜が見事に満開となり、
勢いよくぐんと暖かくなったものが、
ここ何日かは、ちょっとフライングしちゃったかな?ということか、
大人に言わせると“花冷え”とかいうお日和の一つで、
またまた少し寒いのが戻って来ており。
坊やもお兄ちゃんも、長いズボンに靴下に、
上はシャツを重ねたその上へジャンパーという
やはり冬だったころへ逆戻りしたよな姿。

 「夏っていやひまわりや朝顔だろって。
  ちうりっぷは春だ春って笑うんだけどよ。」

何だかなぁと、自分でも情けないとでも思っているものか、
小さな肩を一丁前に落っことし、
地面の溝をどんどん深くしてゆく坊やで。

 「だって、ガッコにも桜とつつじしかねぇじゃんか。」

ないもんを判れと言ってもなかなか覚えないってよと、
敢えて言うなら そうと不貞腐れているらしく。
エースお兄さんにすれば、
咲いた咲いたチューリップの花がと幼稚園で散々唄ったろうし、
テレビのニュースでも春と言えばと取材されてようよと言いたかったらしく。

 “……。”

自分もどっちかといや寡黙なのは棚に上げ、
どっちも言葉足らずなんだよな、ここの兄弟はと、
そんな感慨が浮かんだらしい、微妙な沈黙を抱えた剣道少年。
どうしたもんかと、がっくりしている弟分を見つつ、
機械的に手を動かしておれば、

 かつん、と

何かの手ごたえがあり。
お、と。
竿の先へと視線を戻してから、
ツンツンと探るように突いてたの、
今度は上へ持ち上げてはカリカリと、
やや傾けた先で何か掻き出すような仕草へチェンジして数分ほど。

 「あったぞ。」
 「うあ、凄げぇ!」

湿った土まみれになった、戦隊ヒーローの塩ビ人形が
竹竿の先にバランスよく引っ掛かったまま
ずりずりと掻き出されてくる。
近所の悪戯なわんこが咥えてったのが、
ここへ飛び込むのもいつもの運びなら、
何とかスーパーがぁとか何とかXがぁと、
取り返しておくれとわんわん泣いてるルフィちゃんを連れて、
マキノさんがゾロ兄に“お願いします”と陳情しに来るのも毎度のパターンで。
それもまた、エースお兄さんに言わせれば、
庭先へ出しっぱなしにしている性懲りのなさのせいであり。
お菓子を食べた手でいじるから
わんこにも美味しそうに見えるんだ、齧られてねぇかと
余計な一言まで付け足されての
大泣きでやってきたルフィちゃんにしてみれば。
そんな意地悪でも、やっぱりお兄ちゃんは嫌いにはなれないようで。
こんな言われた、なあ腹立つよなという愚痴くらいはせめてと、
自分には優しいゾロ兄へこぼしてしまうらしく。

 「ありがとーvv」

やっぱゾロは凄げぇよな、
剣道強いだけじゃねくて器用だし、
おれンこと見捨てねえで優しーしと、
満面の笑みにて腹からの言葉としていうもんだから、

 「…お、おう。」

何と応じていいものか、少し照れつつお返事を返した小さなお兄さん。
明日学校で先生に相談して、チューリップの育て方を教えてもらおう。
来年の春、ルフィが咲くとこ見れるようにしてやろうと、
小さなお胸の中にてこそり決心していたりする。

 あんたどんだけ過保護なんだ、と

こっちはこっちで、口の立つお姉さんに呆れられる
小さいお兄さんだったりもする辺りが、
ある意味お似合いな二人な証明かもしれないとはっきりした、
とある春の昼下がりの一幕だった。




  〜Fine〜  16.04.13.


 *他所のお兄ちゃんの方がやさしいのは、
  一日中顔を合わせてないからだなんて定説も、
  ここの二人に限っては的外れもいいとこで。
  エースさんが意地悪云うのって、もしかして嫉妬からかもしれませんぞ?

  ……いや、それはないか。
  ただ単に 可愛いからいじるんだろうな、多分。
  そして毎回性懲りもなく嫌われかかる、と。(笑)

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